「10住宅空間 水野行偉ケンチク展2010」によせて
建築家として、東京から富山にもどって、はや5年。
はじめ、東京での経験をふまえ、富山でつくっていくことを意識して
自分なりに何とかカタチにしたのが、自宅の「ガラスのピラミッド」でした。
今、思えば、東京での建築的思考をそのままカタチにせぬよう思考錯誤し
ここ、北陸/富山にふさわしい、富山ならではのものをつくろうとしたとき
僕の頭の中には五箇山の合掌造とか散居村のアズマダチだとかが浮かんでいた。
建築は四角いカタチではなく、雪を落とすための急な勾配屋根をもったものだろう、とか
北陸の暗い湿ったイメージを取り去ろうとして、光を多くとりいれるため
思いきって表層はガラス張りにしてみたり、とか いくつかの主観的表現を試みた。
そうして完成した建物は、「GALLERY ガラスのピラミッド」として、今では、
僕自身と家族の、またはそこに集う作家やアーチストたちの多様な活動の場としてある。
その後、5年間のうちにできた住宅は約10件。
さまざまなクライアントに出会い、その希望をカタチにしてきた。
その答えはまさに、住人十色、それぞれの住いのカタチを見いだす作業でした。
今回はその10件を、空間的特徴により3つに分類することで整理した。
ピラミッド・TYPE、 洞窟・TYPE、 コートハウス・TYPE
それぞれのTYPEについての説明はここではせず、展示を参照されたい。
継続して考えてきたことは、わが師、室伏次郎のもとで考えていたことの延長にあるように思う。
ガラスのピラミッドはその影響を大きく受け、そこからスタートした僕にとっての建築のはじまり。
空間をつくる原形、光、ソトへひらく、アノニマスデザイン、南を指向する
廃墟のように用をすてた自由な建築、などなど。 理想としてのイメージ。
それは、結果できあがる建築のもつ空間に集約され、品格や自由さをあらわす。
洗練、美しいプロポーション、計算されたディテールなどとは無縁で、あるがままの環境と共生し
静かで素朴なソトへとつながる場をもち、豊かな体験を保証する空間をもつ建築。
たとえば、住宅という建築の場合、それが本質的によい住いだと信じています。
ここ富山に根をおろした者として、この土地、この地域に根差した表現を探すとともに
遠い水平線を見つめるようにケンチクを考えつづける。今はまだ、そんな長い旅の途上です。
建築家/水野行偉、5年間のまとめです。どうぞ、ご覧下さい。
水野行偉建築設計事務所 代表 水野行偉
北日本新聞 2010.04.07